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05/08/25 更新
『月刊建築仕上技術』 平成17年6月号掲載

建築の省エネで大切なことは、次の3つである。

  1. ランニングコストを下げる(極力空調に頼らないで快適・健康に暮らす事が出来、その後の補修費用をなるべく少なくする)
  2. 長寿命建築とし、廃棄・建て替えしない(地震・台風・凍害に強く火災や日常衝撃に強い建物とし、いつまでも美しさを維持する)
  3. 既存の建物をなるべく巧く生かして使う(居ながら改修し、建て替えを避ける)

 最近の予測には、原油価格が1バレル当たり60$以上で今後25年以上続くといったものまで現れている。従って原油に頼らない都市設計が要求されている。だからといって、既存建物を省エネ建物にどんどん建て替えていくことは、大変なエネルギーロスと環境破壊に繋がる。 また、ランニングコストすなわち維持運用のエネルギーを下げるには、断熱と蓄熱を組み合わせて自然を活かした設計(パッシブデザイン)による省エネ効果を上げながら、補修費用のかからない建築を目指すかが重要である。最後の長寿命が最もLCCやLCCO2に大きく効いてくるが、特に自然災害(地震や台風等)に強く、長年の風雪(凍結融解劣化や極暑の紫外線劣化等)に耐えられる建物こそ省エネ的である。要するに、少ないエネルギーで省エネ建物を新築/改修することが出来て、その後優れた運用時の省エネを図り、丈夫で長持ち(長寿命)な建築を目指すことが強く求められる。

 最近、京都議定書の議長国としての国策も問われている中、国内でも省エネ・環境ブームとなっているが、環境先進国での省エネ建築の歴史は、どうであったろうか?

 建物外壁に関しての結論は、半世紀以上にもなる外断熱工法の普及実績そのものと言える。グラフ1はドイツでの外断熱の市場規模の推移である。
 90年以降東西ドイツは統合されたが、長い歴史を通じて古い建物の国策的な湿式外断熱改修を推進してきたことがこのグラフからも読みとれる。この外断熱市場育成実績とドイツの省エネやCO2削減推進とは大きな関連がある。ドイツの外断熱市場は9割近くが改修であり、外断熱市場はほとんど湿式外断熱となっている。

 一方、米国でも69年頃に、この湿式外断熱工法(米国圏ではEIFSと呼ばれている)が導入されたが、石油ショックで80年頃より急速に市場を拡大している。外断熱は省エネ効率が優れているので、米国は積極的にEIFSを導入出来るようにと、80年に優れたEIFSしか使用出来ないように建築基準法を改訂し、米国EIFS業界(EIMA)を設けて健全なEIFSのみが良く普及するような社会的仕組みを作った。米国の場合外断熱市場は新築が多いが、商業ビル用途はEIFSシステムが多く使われている。
 はっきりとした統計は無いが、推定で湿式外断熱の累積実績は、欧州で6億m2、米国で3億m2と言われている。これらの約10億m2という実績は、エネルギー問題とともに半世紀を経過したビル建築の歴史にとって、意味深い数値である。
 8年ほど前より、中国での湿式外断熱の政府主導による導入が行われ、現在では1〜2百万m2/年程度の市場になっている。いずれのケースでも、国がエネルギー問題という国家的課題に取り組む形で、市場成長の政策を進めてきた状況がわかる。

 湿式外断熱工法(EIFS)の一例として、世界的に最も普及した*1米国ドライビット社のアウサレーション工法の例にて、簡単に湿式外断熱工法を紹介する。
*1累積実績約2.6億m2以上


写真1.アウサレーション外壁仕様写真

 工法の概要:下地は耐水性と防耐火性のある必要強度を持った外壁となる。下地に求められる要件は、台風や地震に耐えられる長期的な強度・耐久・防水性を持っており、ビーズ法発泡ポリスチレン断熱ボード(ドライビット社指定仕様品であるが、以下EPSと記述する)を接着出来ることとなる。軽量・柔軟な本工法の被接着面提供という要件なので、RCやALC等多くの既存外壁が水洗等のみでそのまま下地とすることができる。下地と断熱ボードの間の接着樹脂モルタルは写真では見えていないが、全面接着のみで取り付けられる。EPSの厚さは一般的に50〜80mmが多いが、設計事情に応じて20〜300mmまでの範囲で対応する。そのボード表面は約2mm厚の樹脂モルタルとガラス繊維メッシュが一体になった層で覆われ(鏝施工)、ベースコートと呼ばれる保護層を構成する。その表面は1mm以上の専用の仕上げ材により、装飾的に仕上げられる(鏝もしくはローラー・スプレー施工)。

省エネを考えた場合、同工法性能のポイントは以下に整理される。

  1. 居ながら工法(振動・騒音・臭いの少ない改修)が可能→建替えを回避できる。
  2. しっかりと外断熱することで、躯体の蓄熱を活かし、冬暖かく夏涼しいパッシブメリットの驚くべき省エネを実現する。また、耐久性や耐候性が高く、地震や台風・火災に強い外装工法となる。→結果的に運用時の省エネとなる。
  3. LCCの基本性能となる工法の推定寿命は、過去の実績等より、自然環境の厳しい米国でも30年以上とされており、ビル外壁として大変長寿である。→長寿命が最もLCC/LCCO2に効いてくる。

 2005年1月には、米国ドライビットホームページにて一部製品(レジデンシャルMD等類似工法)でEIFSとして史上初めて30年保証*2が公表されたことからも、本工法の長寿命性能は裏付けられた形となった。
*2:保証は適切な設計と適切な施工が前提条件となる。

「アウサレーション」の特徴

  1. 取り付けに金具など使用しないため、高い外断熱性能を確保出来る。→下地のRC躯体の蓄熱性をうまく利用出来るため、パッシブ効果による高い省エネが可能になる。断熱材がEPS*3であるため、数十年に渡り、熱伝導率や主要物性が変化しにくく、長期的な省エネ性能が得られる。(前述の約10億m2以上といわれる世界的な湿式外断熱の実績は、そのほとんどがEPSであるが、その理由はその物性特徴による。)*3:EPSはノンフロン・グリーン購入法適合製品・自己消火性
  2. ガラス繊維メッシュは樹脂モルタルと一体化して端部に位置するEPSを巻き込むように施工する(バックラップ)。この結果万一の火災時にも断熱材の溶融滴下や燃え上がりを防ぎ、高い防火性能を有する(米国法基準クリア)。→工法自体が軽量で柔軟なことより、地震や台風に強く、地震のあとの火災リスクに対しても、高い防火性能を発揮し、資産を守る。
  3. 日常衝撃には、耐衝撃仕様とすることで対応し、部分的に打ち傷に強い仕様とすることが出来る。→補修が少なくなる。
  4. バックラップにより端部シールが可能になり、二重防水構造を標準仕様としている。→長期的防水性能の確保が可能。
  5. 断熱材には通常より透湿性の高いEPSを使用しており、下地より外部側の工法全体を通じて水蒸気の排出がスムースに行われる。→凍結融解による外壁劣化が起こりにくく、丈夫で長持ちとなる。
  6. EPSや樹脂モルタル下地を組み込んだ複合仕上工法であるため、RCに直接塗装など仕上げる場合より、遥かに高い仕上材の耐久性が得られる。工法自体が柔軟でクラックなどが入りにくく、専用仕上げ材は、最高級のオールアクリル樹脂と天然骨材との組み合わせ設計により、促進耐候性試験で5千時間以上と驚異的な数値になっている。独自の防汚染性や防カビ性能により、簡単なメンテで長期に渡り美装を保つ技術を持っている。→長寿命であることより、高いLCCやLCCO2が目指せる。
  7. 表面の専用仕上げ材の種類が多く、多彩な表現力がある*4。→EPSの立体成形による自由な外装デザインとの組み合わせで外壁面への創造的な意匠表現が可能になる。*4:テクスチャー5種以上+特注色3百色以上/種。
  8. 国内でも、しっかりとした資格を有する技術員が必ず携わり施工される仕組みとすることで、施工品質の維持を確保。→長い歴史が培った仕組みで信頼を構築。

 尚、上記施工要領説明で理解されるように、本工法に限らず欧米主流の湿式外断熱工法は、基本的に全て現場で施工者の技量に頼る形で実施される工法である。すなわち、適切な設計・施工が製品性能確保の大前提となる。工法の特性を活かした設計仕様で、メーカーのマニュアル通りに現場で施工されていく仕組みがないと、せっかくの長寿命や高品質も確保されない。
 湿式外断熱の市場育成は国のインフラ政策そのものとなってくるため、どの国でも建築法規にて最低要求性能を規定する。EIFSに求められる米国基準としての各種性能を図1に示す。

 

 例えば防火性能など、これらの性能基準は社会安全の為にも必須事項となる。各メーカーは、法の求める各種最低性能を確保しながら、発注者に対しより良い性能をより安価にといった市場原理に従い展開するが、現場の施工仕様で品質が左右されるため、健全な市場育成のためには法律の他に業界によるモラル育成も必要になる。このため、同種の工法を導入しようとする国はいずれも、法体制や業界の適切な整備を進める。国内でも、(社)日本塗装工業会にて湿式外断熱基幹技能者育成活動を始めるなど一部業界での動きも始まっているが、今後本格普及に対応して、関連法規の見直しやそれに対応した専門業界の設立が望まれる。
  写真2と3は海外と国内でのアウサレーションの施工物件例を示す。


図1.米国での湿式外断熱工法に要求される様々な品質性能


写真2.サマーセットハウス ビクトリア市 カナダ
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写真3.国内新築の写真:福島県老健施設「コクーン」

 国内では、法改正により新築でのアウサレーション採用事例が年々増加しているが、改修の伸び率は、新築より多い。現在の外断熱改修事例は地方公共団体の保有する県・市・町営住宅や病院・福祉施設等の改修が多い傾向にある。これまでに改修を行った建物を見ると、外断熱改修を行う理由として、長期的外壁補修費対策が多いが、防露や省エネも含まれている。
 公営住宅では、管理に責任を持つ明確な主体があるため、予算の制約を受けるものの、専門的で合理的な判断を下せ、国策に合わせて計画的に改修を行うことができる。長年に亘る改修実績と比べて外断熱改修の合理性を評価し、今後の改修に外断熱を採用していく自治体が増加している。
 外断熱改修を行った集合住宅では入居者の満足度が高く、団地などで一部が外断熱化されると、他の住棟でも改修を望む声が多いようである。
 特に改修後の各住戸の月間光熱費の低減(半減したとの報告も多い)や、冬季の結露問題解消の実績は、本工法による外断熱改修効果の認知度を、確実に普及させている。

 冒頭に省エネ建築の3つのポイントについて述べたが、既存建物をなるべく活かし、運用と長寿命で大きな省エネをもたらす点で、まさに湿式外断熱工法は省エネ建築の重要なキーワードの一つと思われる。
 京都議定書の発効に伴い、これからは建築・住宅部門でも厳しい省エネ法規制がかかることになりそうである。
 これまで省エネと言えば断熱+気密が中心であり、各種建物は内断熱だけで造られてきたが、国際的な標準工法、そしてパッシブ理論に叶った正しい断熱方法である湿式外断熱の波が押し寄せてこようとしている。建物の大規模修繕ではこれまで話題にもならなかった外断熱改修が、重要な検討課題として管理関係者の間で議論されることになりそうである。その過程では湿式外断熱に造詣の深いアドバイザーの存在も重要視されることであろう。
 これらの省エネに関する新規制は管理関係者にとって負担になるばかりではない。確かに、これまでの改修工法(補修+防水・塗装)より一時的に工事費がかさむことは事実である。しかし、RC外壁が長寿命化することによる資産価値の向上、光熱費の省エネと室内環境改善による健康居住空間の創出、そして次期改修までの期間延長による補修費低減など、長期的に見た場合、投資価値のある支出と考えることが可能となる。問題は一時負担コストの増加とそれに対する関係者の合意形成の取り扱いであるが、本課題は地域への経済効果も期待されることより、この分野こそ補助や低利融資など政府の後押しに期待したいところである。
(関口高正)

参考URL 
ソトダンフォーラム: www.sotodan.com
サンクビットホームページ: www.cinqvit.com
外断熱の改修効果を事前予測したい方は:(株)クアトロ=http://www.qcd.co.jp

 


 
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