『月間リフォーム』2007年10月号掲載

1.環境問題・省エネ・長寿建築と外断熱
- ゴア氏の「不都合な真実」、
- ドイツに続き来年日本で開催される環境サミット、
- 発展途上国の想定以上の急成長に伴う地球環境負荷予測の修正、原油高騰、
- 異常気象による世界各国での被害の拡大、
- 地震で判明してきた「原発安全神話の限界」
など、環境負荷の低減を訴求する話題は多い。環境に最も影響を与える建築分野では、環境負荷低減に関して外断熱の有効性が話題になっている。他国の外断熱の様子を考えながら、今後日本がどのように外断熱に取り組むべきか考えてみたい。
以下は外断熱に関係しそうな話題である。
- 地球温暖化防止京都会議・・・ドイツの外断熱を含む省エネ政策の推進は、大きな省エネ実績につながっており、結果的にCO2削減目標への達成にも関係している。このことは、日本の省エネ施策へ影響を与えるものと予想される。
- 環境負荷低減・・・建築廃材の処理場不足などにより、行政ではスクラップ&ビルドで予定していた公営住宅の長期計画を見直している。LCCを考慮した長期修繕計画では、湿式外断熱改修による長寿命建物化に社会的関心も高まっている。
- 健康住宅…既存RC住宅に住んでいる人の中では、浴室や北及び西側居室の環境改善、「結露・カビ」防止対策として、外断熱改修への関心が高い。全体もしくは一部の外壁を部分的に外断熱改修する防露工事の計画が増加している。
- 省エネ法改正…2006年4月1日より大幅改定されたことで、延床2千m2以上の建物に対し、集合住宅や大規模改修も対象となり、国土交通省も二重サッシ・エレベーター制御と合わせて外断熱を改修省エネ計画の効果的具体策として推奨。従前の補修・塗装改修から外断熱改修に変更する動きが始まった。
- VOC問題…学校や集合住宅の外壁改修の場合、塗装溶剤の臭いが問題となっていた。水系の特長として、臭いの少ない湿式外断熱仕上げは関心を集めている。・・・ETC
2.外断熱のメリット
外断熱工法は、蓄熱体であるコンクリート全体を分厚い断熱材で包み込むので、温度を一定に保ち、快適で優れた断熱効果が得られる。すでに多くの技術論文で「厚い断熱材で建物を被覆する外断熱のメリット」が言及されているが、中でも大きなメリットは以下の4つである。
(1)装置を使わない省エネ(パッシブ)
建物を外断熱にすると、熱容量の大きなRC駆体が室内温度に同調するので、冬に日射取得、夏に日射遮蔽や夜風の冷気等、自然エネルギーを有効に活用して、空調負荷を大幅に低減させる。加えて室内全域を均一な温度にさせる。
外断熱改修での省エネ効果は、建物の条件で異なるため、個別にシミュレーション計算を行って省エネ効果を予測する必要がある。後述する海外の外断熱普及による省エネ実績の事例にあるように、うまく計画された外断熱では、省エネ効果も相当に大きくなる。
(2)高耐久・長寿命の建物
RC駆体が直接風雨や凍結融解・紫外線などにさらされず、保護されるので躯体の老化が防げ、長寿命化がはかられる。外皮となる外断熱工法が充分な防火・耐久性を持っていれば、長期的な大規模修繕費用を低減することもできる。この点で、防火性や外壁としての耐久性などが、第三者機関などで検証を受けた、品質の確かな材料・工法を採用することが重要である。後述する米国ドライビットシステムズ社(以下ドライビット社と記す)の工法は、米国ICBO基準などをクリアした品質である。
(3)健康な建物内環境
一般的な使用状況では、外断熱建物は駆体内壁面の温度が露点以下にならないので、結露が起こりにくく、子供部屋や浴室などでカビの発生による健康被害が減少する。衛生面から防露工事が希望されるケースもある。

 図1.外断熱改修がもたらす大きなメリット!
優れた省エネ! 快適性! 長期耐久性!
何十トンものコンクリート躯体を熱の貯金箱として、外断熱保温。
→蓄熱で全室が快適な室温。 →自然の力で大きな省エネ。
 図2.ある階の室温シミュレーション結果
建物を外断熱改修した場合の各内壁部の温度が均一で快適になっていることがわかる。
(資料提供:(株)クアトロ)
 写真1.国内のドライビットを使用した新築マンション。
目地のない仕上がりは斬新である。
 写真2.改修前の群馬県草津町営中島団地改修工事
施主:草津町 設計:群馬県住宅供給公社
 写真3:改修後の群馬県草津町営中島団地改修工事
施主:草津町 設計:群馬県住宅供給公社 、H18年12月竣工
 写真4、和歌山県 某町営集合住宅の改修事例(手前改修前建物)
 写真5、和歌山県 某町営集合住宅の改修事例(改修後南面)
写真6、和歌山県 某町営集合住宅の改修事例(改修後北面)
改修後の居室は、部屋中・年中“快適ゾーン”となった、とのことである。当然光熱費の減少も確認されている。この改修プロジェクトは2007年国土交通省住宅局住宅生産課のCASSBEE講習会テキストにて、「補助による支援例:地域住宅交付金を活用した公営住宅の断熱改修事例」として紹介されている。
これらは、個別の建物のメリットである。しかし、国全体のメリットも無視できない。
(4)国家的な電力ピークカット
外断熱建物は、夏季であっても冷房設備の必要能力が小さくてすみ、かつ小電力維持運転で需要のピークが平準化されるので、発電能力を縮小しても電力需要を賄えることになり、エネルギーについての国策的見地からも望ましい結果が生まれる。
また、建物の外皮が断熱材で覆われると、コンクリートやタイルなど蓄熱容量の大きい材料が外気にむき出しになっている建物に比べ、夏季の太陽熱の多くが建物に貯められることなく拡散してしまうので、都市のヒートアイランド化現象も減少し、熱帯夜の頻度も理論的には少なくなるはずである。これも巡り巡って、個々の建物の住民である我々の生活にとって快適性向上というメリットの受益に繋がる。
3.ドライビット・アウサレーション工法の概要
3−1工法の概要
外断熱工法には表1に示すように多くの種類がある。ドライビット外断熱工法はEに分類され、「湿式外断熱工法」と呼ばれる。特徴としては施工時に騒音が少ないため入居したままでの改修が可能な、「居ながら施工」に適し、熱橋が小さいことがあげられる。
表1のE欄のドライビット外断熱工法は、米国のドライビット社が約38年前に開発した画期的な湿式外断熱工法である。施工手順は、透湿性のあるドライビットボードをコンクリ−ト躯体既存外壁の外側にドライビット製ポリマーとセメントの現場混合による接着混和材で貼りつける。接着完了後、そのドライビットボード表面をグラスファイバーメッシュと上記接着混和材によるベースコートで覆うことで、高断熱性・高耐久性・耐衝撃性・防火性等を高めた工法である。ベースコートが乾燥したら最後の表面仕上げ工程である水蒸気透過型の塗り材(ドライビットフィニッシュ:アクリル系を主体とした特殊樹脂と骨材などを配合した各種仕上げ材)を上記ベースコートの上に鏝もしくはスプレー・ローラーなどで仕上げる。ボードの接着から仕上げまでを総合的に設計されたシステム工法による外断熱工法である。
表1外壁外断熱工法の比較
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A.吹付け工法 |
B.密着・湿式工法
(断熱材ピンネット押さえ工法) |
C.密着・乾式工法
(GRC断熱材複合パネル) |
D.通気層・乾式工法
(胴縁サイディング材仕上げ工法) |
E.ドライビット外断熱工法 |
| 断面図 |
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| 仕様 |
外壁面に断熱材を吹付ける。仕上げる吹付け断熱材には「発泡ウレタン」や「アルミナセメント系吹付け材」などがある。仕上げ材は塗膜防水系トップコートが使用される。 |
外壁面に断熱材を接着剤+アンカ−ピン+ネットを利用して張り付け、ポリマーセメントモルタル左官材で押さえて仕上げる。断熱材は押出し発泡ポリスチレン系断熱材等を使用。 |
外壁面に「GRC複合断熱パネル」を接着剤とアンカーピンを併用して張り付ける。GRC複合パネルの表面を塗装仕上げとする場合もある。 |
外壁面に胴縁を配置して胴縁間に断熱材を置き、表面にサイディング材を張り空気層を設ける。サイディング材は押出し成形セメント板などの不燃材とし、タイル張り仕上げも可能である。 |
外壁面に断熱材を接着剤にて張り付け、断熱材をグラスファイバーメッシュおよび樹脂系モルタルルで補強し、その上に塗仕上げを施す。断熱材は透湿性の高いビーズ法発泡ポリスチレンボードを使用する。 |
| 断熱性能 |
断熱材の厚さが制限されるため、断熱性能にも限界があるが、通常の外壁塗り材よりは断熱性能は向上する。 |
断熱材の材質と厚みにより断熱性能が決まる。 |
断熱材の材質と厚みにより断熱性能が決まる。 |
断熱材の材質と厚みにより断熱性能が決まる。 |
断熱材の材質と厚みにより断熱性能が決まる。断熱材に経年変化がない。アンカーに起因する熱橋が小さい。 |
| 改修工事コスト |
比較的安価 |
吹付け工法より増大する |
比較的高価 |
比較的高価 |
比較的安価 |
| その他 |
断熱材の厚みにより幅を大きく狭めたくない箇所に有効 |
アンカーがヒートブリッジ(熱橋)にならないように断熱プラグを使用 |
開口部などの役物廻りのパネルの納まりや割付に工夫が必要 |
耐久性、断熱性能などの信頼性が高い |
基本的にアンカーを使用しないので、躯体を傷つけることがなく、部分的に使用されるアンカーも断熱される納まりなので、熱橋の心配もない。居ながら施工に適する。 |
注1) マンション総プロ表5.3.8では、上記A〜Dの分類までであるが、建築基準法の改正に伴い、薄塗りで防火認定を受けている事、基本的にアンカーを要しないことから、ドライビット外断熱改修工法をEに分類した。
3−2、米国の実績
 写真7.ベラッジオ、ラスベガス、ネバダ州
07年2月7日のウォールストリートジャーナル誌によると一般米国人の「最も美しいビル」
ベスト22位として、ベラッジオが選出された。過去10年以内の建物としては、ベスト30
以内はベラッジオのみ。ラスベガスの大型ホテルでは大半が外壁にドライビットを採用している。
 写真8.クール アレーン リゾートホテル アイダホ州
塩害に強いドライビットは、海岸そばのコンドミニアムにも使われている。
 写真9.レノックス プラザ、アトランタ ジョージア州
オフィスの省エネや補修費削減は企業の収益貢献度が高く、この理由でドライビットが指定されることも多い。
 写真10.ロッキーマウンテン 会計センター チャンドラー アリゾナ州
意匠性は商業ビルの集客力に大きな影響を与えるため、ドライビットのデザイン性は高い評価を受けている。
写真7−10は米国でのドライビット工法の施工物件である。全米に建つ大型商業ビルは色々な外装材が使用されているように思われるが、実にその11棟に1棟はアウサレーション仕上げといわれている。中小を含む全ての商業ビルでは更に比率が上がり、約25%が湿式外断熱工法(EIFS)となっている。ドライビットはその過半以上のシェアとなる圧倒的な実績を持つ。その背景には、厳しい環境に対する耐久性や美観の維持に加え、限りないデザイナーの要求に応え続けてきた製品開発力と、傘下工事会社の、実績に基づく製品への自信が感じられる。
初期には数十社あった湿式外断熱の製造会社が、現在では米国の湿式外断熱業界(EIMA)に加盟している製造会社としては、ドライビット社を含めたったの4社になってしまったということである。すなわち、厳しい環境とデザインに対する要求、そして厳しい訴訟社会である建材ビジネスの中で、いかにこの工法を長期的に事業展開していくことが難しいかを物語っている。
3−3、外断熱改修での施工要領
ドライビット社のアウサレーション工法は、長寿命建築に要求される耐水・防耐火性・耐震性を持っている下地駆体外壁に施工される。下地駆体外壁はさらに接着可能な表面状態となっていることが求められ、通常ほとんどのコンクリート建物の外壁表面に、洗浄程度でそのまま接着施工されることが多い。下地に接着するドライビット断熱ボードはビーズ法発泡ポリスチレン(EPS)断熱材でドライビット社規格に適合したボードである。下地と断熱ボードは接着樹脂モルタルで接着される。接着剤は、ドライビット製ポリマーとセメントとの現場混合による接着混和材である。ドライビットボードの厚さは一般的に50〜120mmが多い。接着完了後、そのドライビットボードの表面を約2mm厚の樹脂モルタルとガラス繊維メッシュにより保護層(ベースコート)を鏝で形成する。ベースコートが乾燥したら、最後に透湿性を持つドライビット専用の塗り材(フィニッシュコート)により、鏝などで施工して仕上げる。
 写真11.アウサレーションの断面
3−4 実際のドライビット外断熱改修での施工状況
事前に施工者が下地となる外壁状況を調査・診断し、必要な耐震診断・劣化診断や補修を実施する。→笠木や水切り・手すり・樋などを、一旦取り外す。→新しい外装デザイン図面に基づいてドライビット外断熱施工を行う。すなわち、(1)断熱ドライビットボードの接着取り付け。(2)表面への保護層(ベースコート)の鏝施工。(3)ドライビット専用特殊仕上げ材により、図面通りのテクスチャーや形状・色に仕上げる。(4)新しい笠木・水切り・手すり・樋を取り付ける。(5)ドライビットシステムの端部の防水シール施工を行う。
 写真12:発泡断熱材の貼り付け施工

写真13:小口の保護層による被覆 (バックラップ施工)

写真14.最終表面仕上げ施工(鏝による施工)
施工マニュアルに従って、下地処理→断熱ボード貼り付け→表面保護層(ベースコート)施工→表面仕上げ施工と進めていく。湿式の特長として溶剤臭はしない。しかし、湿式の最大の課題として、雨期・冬季など天候条件が悪い工事では、乾燥が遅れ工事期間が延びることがある。基本的にコストを下げるため、冬季や雨季を避けた施工計画をすることが重要である。アンカーを使用しない接着施工のため、熱橋がなく、振動や騒音を伴わない施工となり、入居したままでの改修が可能である。
3−5 実際のドライビット外断熱改修での課題:下地の剥離
上記表1にあるように、ドライビットは接着で取り付けられる。一方国内のRC建築物の場合、築20年以上経過している外壁では、表面の劣化が問題となっており、一般的には、下記の手順で改修計画される。  表2.外断熱改修工事での調査・診断・設計・施工の手順
ここで、問題となるのが、下地モルタルの浮きや、塗膜の劣化による接着強度の確認である。表3に基本的な対応の考え方を示す。

表3 モルタル塗りの損傷補修要領(ドライビット外断熱工法 技術体系-8より)
(画面をクリックするとPDFをダウンロードできます)
従来の補修方法では、たとえば剥離・剥落が一部に確認された場合、その補修が必要な部位以外でも、剥離防止措置が取られる。将来的な剥離の進行を予防する意味で、まだ健全な部分を含む広い範囲に対して、アンカーピンニング全面エポキシ樹脂注入工法等が用いられることが多い。
基本的に表1にてEに分類されるドライビット工法は改修後の下地RC外壁の劣化要因である雨水のモルタル内部への侵入や厳しい温度変化にさらされなくなるため、「現状は問題がないが、将来剥離してくる恐れのあるか所への予防的な全面補修」は不要となる。
しかし、実際の改修工事では、足場を設け、しっかり検査しないと表2の各下地損傷の検査が難しい。そこで、「何らかのアンカー金具を併用した湿式外断熱工法の提案」を希望されることがある。
残念ながらドライビットボードはEPSであり、圧縮力への抵抗ができないため、EPS断熱ボードの上からのアンカー固定では、剥落防止効果はあまり期待できない。そこで、適切な範囲の下地へ「必要な剥落防止措置」を実施したあとに、ドライビット外断熱工事が始められる。
従って、工事計画ではある程度大きな面積の剥落防止補修予算を見ておき、現場での検査・判断状況に応じた出来高清算で最終的な工事金額が決定されるケースが多い。図面上では厚いEPSをファスナーで固定した断面表記では剥落防止効果がありそうに見えるので、誤解されることも多く、EPSの上からのファスナーに過度の期待が出来ないことを説明しなければならないケースもある。
最近では耐震工事と外断熱工事が同時に計画されることも多く、上記補修費をどう見るかを含め、工事計画での予算管理が難しくなっている。外断熱工事を実施したあとには駆体外壁の検査が困難になるので、足場を設けた後の検査及び補修方針の見直しを前提とした工事計画が今後の外壁改修工事で重要になっていくものと思われる。
4.国内と海外での外断熱市場の普及に関して
4−1、海外での外断熱市場普及の様子
米国ではグラフ1に見られるように、EIFS(湿式外断熱工法)の工業会EIMAの活動もあり、既に約3千万m2/年の市場にまで成長している。米国では、EIFSはあらゆるビル外装材のなかで最も普及した工法にまで至っている。www.sotodan.comの中にEIMA理事長来日講演(2007年2月)の様子が見られ、EIMAの内容が紹介されている。
お隣の国中国では、国家指導のもとに2002年に省エネや外断熱の性能要求に関する法整備が整い、急速に湿式外断熱の市場が拡大した。既に環境負荷の低減に成功した多くの外断熱集合住宅が、北京や上海周辺に建造され、改修されている。 ドライビットだけでも06年ベースで約7百万m2/年(シェア約7割)までに至ったとの急成長ぶりであると聞いている。(上記www.sotodan.comの中に極東のドライビット責任者の講演(2007年2月)もあり中国での市場成長の様子が紹介されている。)
 グラフ1:米国の湿式外断熱市場(大手EIFSメーカーの合計施工面積、単位:百万m2/年)
 グラフ2:中国と日本のドライビット湿式外断熱市場拡大、単位:百万m2/年
 グラフ3:ドイツの外断熱市場規模推移、単位:百万m2/年、お茶の水大学・田中辰明名誉教授資料提供
一方、環境対応では、一歩先を行く欧州は外断熱の実績も多い。筆者は6年前に欧州に出張し、外断熱を推進するドイツやスウェーデン政府の建築関係者をTV取材する業務に同席する機会に恵まれた。その時のドイツの行政建築関係者の言葉を思い出す。「社会資産としての集合住宅は国民の福祉や国家の省エネに大きな影響を持つため、長期的に外断熱の普及を目指すのは国の仕事である」との話をされていた。
ドイツでの取材では例えば、フランフォーファー建築物理研究所の当時熱工学部門の部長であったハンス・エルホルン部長が取材時に以下のような説明をされていた。
「ドイツで外断熱改修のパイロットプロジェクトが始まった頃、行政が省エネをサポートしてくれた。市場で初めて外断熱改修工事事業が始まった頃は、まだユーザーの方で良く分からないとか、利用の仕方が分からないということでなかなか普及が広まらない。
ある期間は行政が補助してやらないと、外断熱工事事業を行う人も少なく、結果的にその工事を依頼する人が増加しない。また工事に要求される工法への性能要求も基準が良くわからない。そこで、最初は基準の性能を満たす外断熱工事には補助金を出す等の行政サポートが実施されてきた。それが4−5年経過すると、地域単位でも千戸位増加してくるので、施工会社も安定したやり方を掌握し、ユーザーも外断熱の施工の方法やその外断熱改修建物が危険のないものであることが理解されてくる。市場が大きくなると湿式外断熱工事事業者にとっても安定事業となり、コストが下がった分更に市場が増加してくる。そこで、補助金を減らし、やがて補助金をなくしていく。その市場が増加していくことで、数万戸のレベルになってくる。政府・行政の方で外断熱の普及とそれに連動した省エネ実績を調べて公表し、更に市場が大きくなる。民間の事業だけではなかなか外断熱は普及しないので、初期に補助金を利用することで市場の拡大を地域ごとに進めてきた。」
エルホルン部長のドイツのこのような外断熱市場の話は、グラフ3の累積で過去の累計が約6億m2までに至っている外断熱の実績にも現われており、現在のドイツのCO2削減実績への貢献の大きな要因に繋がっているように思われる。
このような海外の普及情報を聞くと、なぜ省エネ意識の高い日本では、新築/改修で湿式外断熱の導入に勢いがつかないのか?と考えることがある。
4−2.なぜ国内の外断熱市場は成長スピードがゆっくりなのであろうか?
世界的に普及が進んでいるドライビット外断熱工法は、省エネ意識が高く、環境先進国を目指す日本でも早く普及するであろうと6年前に予想し、本格的に事業を開始してきたが他国と比較して普及のスピードが遅い。グラフ2参照。
たとえば、建物を社会インフラととらえた場合、外断熱改修が、従来からの改修方法に比較してメリットが多いことは、これまでいろいろな専門誌でも書かれてきた。しかし、現実の市場を見るとおよそ大規模改修と称されているプロジェクトのほとんどが、通常の「補修+塗装」の改修である。これだけ環境問題が取り上げられていても、新築建物のほとんどは内断熱である。そこで、これまで弊社で営業努力をかなりやってきたにも拘わらず未だほとんど事例が増加しなかった「民間分譲マンション」の外断熱改修を事例にし、考えてみたい。
外断熱改修を考えるマンションは築25年から30年経過している場合が多く、たとえば25年前に購入した住民(世帯主)の購入時の平均年齢が35歳であったとしても、現在では60歳になっている。通常の企業でいえば定年を迎える年齢である。塗装でなくドライビットで改修することで、コストは高くなるが建物の省エネ・耐久性・室内の結露・デザインなどが良くなり、資産価値が上がるなどと懸命に営業した。しかし、外断熱改修の公営住宅での実績やメリットを説明しても、マンション管理組合員の2/3の合意に至ることはほとんどなかった。基本的に多くの方が、「塗装で10年以上もつのであれば、わざわざコストの高い工法で、改修するよりなるべく大規模修繕費用を安くしたい」と考えるためである。
この問題を考えていると、外断熱の普及は通常の新規建材の市場拡大とは少し様相が異なる面を感じる。
5.建物を社会資産ととらえることのメリット
グラフ4は、各主要国のビル建物の平均寿命である。「平成8年度建設白書」によれば、30年程度で建て替えられる日本のコンクリート建築物に比べると、欧米諸国の耐用年数は80年〜100年と圧倒的に長く、イギリスにいたっては141年も使い込んでいることがわかる。
 グラフ4.各主要国のビル建物の平均寿命 出典:平成8年度建設白書
日本の建物は非常に短寿命である。建物を解体し、そこに別の建物を新築する時の環境負荷をCO2の発生量に置き換えてみると、相当大きな環境負荷であることがわかる。日本の建築市場では「欧米並みあるいはそれ以上の長寿命建築を目指さなければいけない!」ことは明白な事実である。
200年建築を目指す動きがあるが、200年生きることのできる人も、法人もまずいないことを考慮すると、長寿建築を生み出す社会的仕組みの必要性が感じられる。 あるいは新たな考え方が必要なのかもしれない。
6.持続できる社会へ
6−1.米国人がこだわる歴史的建物の資産価値
米国人は、古いアパートメントをEIFS(湿式外断熱)で改修する事業が多いと聞いている。ドライビット社の場合、改修用が全市場の3割以上とのことであるが、それをレノベーションやリニューアルと呼ばす、レトロフィットと呼んでいる。ポイントはレトロフィットすることで、古き良きたたずまいを表現しながら、資産価値を引き上げていることである。「レトロ(古い時代の良きイメージ)を残したセンスの良い改修を社会が高く評価しているようである。日本人は、新しいマンションに価値を見出そうとするが、米国人の場合、逆に「古い歴史を持つ建物」に誇りを感じ、それが意外なステータスや資産価値につながることがある、と聞いている。古いアパートメントをすぐ建て替えようとせず、歴史を残したレトロフィットで、価値を高めようとする考え方も、日本とは別の文化かもしれない。
 写真15.Apartment New York 6,000m2 70年代
改修前:
 写真16.Apartment New York 6,000m2 70年代
改修後:レトロフィットで資産価値のアップに繋がる。
6−2、環境対策としての外断熱建物の普及
日本人には、仮に同じ条件・仕様のマンションであったとしても、新築のほうが古い建物より価値が高いと考える文化がある。基本的に、日本は欧米の価値観とは少し違いがある。しかし、建築市場の拡大の原動力になってきたこれまでのスクラップ&ビルド的な経済成長では深刻な環境問題に直結してしまう。これからは、地球環境問題へ配慮された長寿建築による環境負荷低減型の建築市場へ切り替えをしていくしかない。
これからは、極力既存建物を有効利用して同じ建物を百年でも二百年でも、なるべく長く、なるべく省エネで何世代にもわたって大切に使用していかなければならない。
一方、上記グラフ1−3で見られるように、海外では「新築でも、改修でも、長期的に見た省エネ環境負荷評価で有利な外断熱を進めよう」との姿勢が感じられる。
今後国内で環境負荷に対応した政策を検討する場合、上記ドイツの外断熱改修市場の初期での補助金による市場育成政策は一つのヒントになると思われる。また米国の「古い歴史的な建物こそ資産価値あり」との感覚や不動産評価の考え方は環境負荷の意味でも学びたいところである。中国政府が、2002年に省エネ法と外断熱工法への要求性能(米国の法規に準じたもの)を立法化して、その後湿式外断熱の普及が加速したこともヒントになろう。
すなわち、橋や道路のように「建物も社会のもの」であり、個人や法人は所有物である建物を利用し資産運用していくが、一方で子孫のために社会インフラとしての建物が「より環境にやさしい状態になっていくような仕組み」をつくることも重要である。
すなわち、建物を社会インフラそのものとして長期の環境負荷低減政策に従った運用管理が進められるよう、行政と民間が一体となった長寿命化・省エネ化を支援する仕組みを育てていこう、といった考え方である。
新たに不動産を購入したあと、土地の有効利用を考えて既存建物を取り壊し建て替える話はよくある話であるが、なるべくこのような事態を避けるような仕組みが必要であろう。
建物は社会資産なので、各世代にわたって、サスティナブルに持続できる考え方が、環境負荷低減に大きな貢献をもたらす。
6−3.外断熱改修による環境対策推進のための補助要素の提案
民間分譲マンションの築15−20年での大規模改修では、通常「補修+防水」(1)で計画されることが多い。
これを、「補修+外断熱改修」(2)して、環境負荷低減基準にクリアしている場合、補助金を充当し、当該市場の拡大を支援していこう、との提案はいかがであろうか?
湿式外断熱工法の長期耐久性の指標となるような一定の基準を法規的に設け、その基準をクリアしているかどうかを審査する。そしてもし基準をクリアしている場合は、その割増価格((1)−(2))の一部へ補助金が拠出される、とする考え方である。100年以上の寿命の環境負荷低減型建物として既存国内の社会インフラを再整備していこう、との目標である。上記のドイツの例では、基本的に市場初期では半分の工事費を国が援助して、普及を促進していた。日本でも市場が成長し始めるまでは、ある程度を国の補助金として拠出する仕組みが目安ではなかろうか?
そうなると、外断熱工法に関しても、断熱性能以外に、防火性能や耐久性能など社会のインフラが最低限要求する性能を定義する必要が出てくる。建築基準法で、所要の規定を設ける必要があるかもしれない。
6−4、欧米市場が要求する湿式外断熱工法への品質要求とは何か?
図3に断熱工法の分類を示す。外断熱工法は,外部で自然に曝される分、耐久性や防火性能等、その性能評価が重要視される工法である。図3にその要求に関する概要図を示しているが、湿式外断熱工法では、単に防耐火性能のみならず、長期にわたって建物の資産価値を維持していくために多くの要求性能がある。

図3 断熱工法の分類
 図4.湿式外断熱工法に要求される品質性能
図4に示した要求性能は、米国のICBO(米国国際主事会議)(現在ICCへ統合)が発泡プラスティックを用いる湿式外断熱工法(EIFS)に求める基準である。詳しくは使用される発泡プラスティックに関するAC12(*1)とEIFSに関するAC24(*2)がその認定基準となる。これらの基準は、EIFS導入を進めている諸外国によって少しずつ異なるが、多くの国では、地震や台風等自然災害が多く火災拡大の防止や長期的な社会インフラを確保する観点から、EIFS先進国の基準を参考にしながら自国に適した性能基準を追加策定し、積極的なEIFSの導入を進めている。
いくつかの先進国が持つ基準の中でも、もっとも影響を与えているのは、米国のICBO−ES(米国国際主事会議性能評価会社)であろう。
このような防火や耐久性能の基準設定は省エネ基準と合わせて社会インフラ上最低限必要である。明確な法的要求の立法化こそ、環境対応型社会インフラ構築の第一歩となる。 7.国内での外断熱改修市場の普及のために
これまで、多くの民間マンション管理組合で、一度は検討された外断熱改修案が、経済的に負担が大きすぎるとして見送られた。一方で、多くの官公庁の営繕課で「省エネ外断熱改修が検討されてきたが、税金を使用した公共事業で一部の住民の利益になるものは不可」として緊急性のある外壁外断熱改修を目的としたもの以外は見送りとなってきた。
一方、前述のように海外事例では、例えば中国は2002年に省エネ法と同時にこのような外皮としての外断熱工法が守るべき性能を米国のビルコードを参考に立法化し、その後の5年で湿式外断熱工法の大いなる市場成長に繋がった。ドイツでは国の省エネ事業として20年以上、湿式外断熱改修事業が進められてきた。
長期スパンで、環境負荷に最も影響力のある都市や建物の形態を再構築する必要があるが、「誰が誰のために実施するのか」を考慮しないと、百年の計を見誤ることになる。
外断熱が世界中で広く普及しているとのニュースを聞くたびに、省エネ立国日本に相応しい仕組みを考えたくなる。環境問題が待ったなしの状況となっている現在において、日本の社会が「更なる環境負荷低減に向かって力強く外断熱市場が貢献」していくための、社会的仕組み作りが芽生えることを願っている。
※1:AC12:ICBO−ES(米国国際建築主事会議性能評価会社)が作成する性能評価報告書の元となっているIBC(国際建築基準)の第104.11他にて規定されている、発泡プラスチック保温材の認定基準のこと。(内容はhttp://www.cinqvit.com/06_shiryou/06_download2.htmlに開示)
※2:AC24:ICBO−ES(米国国際建築主事会議性能評価会社)が作成する性能評価報告書の元となっているIBC(国際建築基準)の第104.11他にて規定されている、外断熱および仕上げ工法(Eifs)の認定基準のこと。(内容はhttp://www.cinqvit.com/06_shiryou/06_download2.htmlに開示)
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